焙煎士の成長段階とコーヒーの品質について

「もっと上達したい。」焙煎を続ける人なら、一度はそう思ったことがあるでしょう。

しかし、「上達」とは何でしょうか。焙煎時間が短くなることでしょうか。温度管理が正確になることでしょうか。もちろん、それらも成長です。しかし、本書では成長をもっと広い視点で捉えます。焙煎士は技術だけでは成長しません。ものの見方が変わることで成長します。本章では、焙煎士がどのような段階を経て成長していくのかを整理します。自分が今どこにいるのかを知ることは、次に何を学ぶべきかを知ることでもあります。

成長は一直線ではない

焙煎を始めたばかりの頃は、毎日が新しい発見です。

温度の意味を知る。一ハゼを覚える。火力を変えてみる。焙煎機の癖を知る。

一つひとつが新鮮で、昨日より今日の方が確実に成長している実感があります。

しかし、ある時期から成長が止まったように感じます。

「何を勉強すればいいのか分からない。」

「昔ほど伸びている気がしない。」

これは停滞ではありません。

次の成長段階へ進む入口です。実際には、成長は階段のように進みます。

急激に伸びる時期があり、その後しばらく横ばいになり、ある日突然視界が開けます。

だから停滞を恐れる必要はありません。停滞ではなく、理解が深まる準備期間なのです。

レベル1 再現する

最初の段階は「再現」です。先輩や講師から教わった焙煎を、そのまま再現することを目指します。

この段階では、

  • 焙煎機の操作
  • 安全な作業
  • 基本的なプロファイル
  • カッピングの流れ

を身につけます。ここでは「なぜ」よりも「まずやってみる」が大切です。料理人が最初に包丁の持ち方を学ぶように、焙煎士も基本動作を体で覚えます。再現できない人は、改善もできません。

レベル2 違いに気づく

基本ができるようになると、次は違いが見えてきます。

「今日は香りが違う。」「昨日より甘さが弱い。」「冷めると印象が変わる。」

以前なら気づかなかった小さな変化が見えるようになります。

ここで初めて、観察する力が育ち始めます。多くの人は、この段階で「味覚が良くなった」と感じます。しかし実際には、味覚が急に鋭くなったのではありません。比較する経験が増えたのです。

レベル3 理由を考える

違いに気づけるようになると、次は「なぜ」が始まります。

なぜ今日は酸味が強いのか。なぜ余韻が短いのか。なぜ香りが弱いのか。

ここで重要なのは、答えを急がないことです。良い焙煎士ほど、「分からない」と言えます。

分からないから観察し、仮説を立て、検証します。この段階からOTIサイクルが本格的に回り始めます。

レベル4 狙ってつくる

ここまで来ると、焙煎は「作業」ではなく「設計」になります。

例えば、

「今回はミルクチョコレートのような甘さを強調したい。」

「夏向けだから透明感を重視したい。」

「エスプレッソなのでボディを厚くしたい。」

味を先に描き、その味へ近づけるために焙煎を設計します。この段階では、温度は目的ではありません。味を実現するための手段になります。

レベル5 教えられる

本当に理解した人は、人へ教えられます。なぜなら、自分の頭の中を言語化できるからです。

「なんとなく」では教えられません。「経験だから。」でも教えられません。

相手が理解できる言葉へ変換できて初めて、本当に理解したと言えます。教育は、自分の理解を試す最高の機会でもあります。

成長段階は行ったり来たりする

ここまで五つの段階を紹介しましたが、

実際には一直線ではありません。新しい焙煎機を導入すれば、またレベル1へ戻ります。

新しい生産国の豆を扱えば、再び観察から始まります。つまり、成長とは上へ登ることではありませ

ん。学び方が身についていることです。だから自走できる焙煎士は、新しい環境でも成長できます。

まとめ

焙煎士の成長は、知識を増やすことではありません。見る力が育ち、考える力が育ち、改善する力が育つことです。本書では、成長を次の五段階で整理しました。

  1. 再現する
  2. 違いに気づく
  3. 理由を考える
  4. 狙ってつくる
  5. 教えられる

そして、どの段階にいても共通して必要なのが OTIサイクル です。観察し、考え、改善する。

この循環を回し続ける限り、焙煎士の成長は止まりません。